Temptation

(世阿弥)


初めての訪問から1年程経った頃、世阿弥はいつもの様にウエストエンドへと向かうと、其処は一見いつもの街並みに見えたが、町の人々の顔に、どこか生気が無い様に見えた。
世阿弥は、そんな町の様子が気になりつつも、ジョイアに会いたい一心で、足早にサングエ邸へと足を運んだ。
ところが、先月まで此処に住んでいたサングエ一家の姿は其処には無く、ストーンヘンジより更に西にあるブラッド城へと引っ越した事を、町の人たちから聞いた。
世阿弥は、妙な胸騒ぎを感じつつも、ジョイアの美しさが忘れられずに、その足でブラッド城へと向かった。
「此処は・・・一体」
キースリーの町を出た時は、まだ昼前で、此処に着く少し前までは確かに太陽が存在していた筈なのに、城が世阿弥の視界に入った途端。辺りは漆黒の闇に包まれた。
この情況を見て、背筋が凍りつく様な感覚を覚えた世阿弥は、ふと冷静になって町の様子。そして最近ウエストエンドで頻発する吸血鬼騒動が脳裏に浮かび、城に背を向けたその時、いつの間にか背後にジョイアが立っていた。
「世阿弥様・・・お久しぶりです。父に御用ですか?」
「え・・・あ・・・その・・・」
「この城は初めてでしたわね?わたくしがご案内します。・・・どうぞ」
初めて触れたジョイアの手は、とても冷たかったが、それと同時にとても柔らかく、世阿弥の脳裏にあった不安や疑念は一編に吹き飛び、為すがままに大広間へと連れられて行った。


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