絹・愛のメモリー

(天外魔境2)


ここは丹波の国。
鹿の子村の外れでは、今日も小さな墓に手を合わせているみすぼらしい小男がおりました。
「バーバラ、こんな俺を許しておくれ、お前だけを愛するつもりが、卍丸につい、心を動かされてしまったのさ・・・」
その頃、ペペとの3回目の死闘を終え、疲れた体を休めるべく、近くにあった忍びの里にて休息を取っていた卍丸は、大きなくしゃみをした。
「おや、卍丸様、風邪ですかな?」
宿番をしていた忍者にそう聞かれ、卍丸は不思議そうに首を傾げた。
「ペペの野郎にしつこく追い回されてたからのぅ・・・疲れでも出たかもしれんのぅ」
出発の準備をしていた極楽がそう言って卍丸を見ると、窓からさす日差しを浴びているにも関わらず、卍丸の顔色が青白く見えた。
「実はさ・・・変な夢見たんだよ・・・ペペの奴がバーバラの墓に向かって、おいらの事を・・・うーん」
卍丸はそれ以上言葉を重ねる事をせぬまま、敷かれたままの布団の上に座り込んでしまった。
「卍丸の疲労が酷そうです。今日はもう一日お世話になってはいかがでしょう?」
絹の言葉に、その場に居た全員が頷き、卍丸は、再び床についた。

その頃ペペは、盗んだ雑貨類等を使い、箱庭城の改造にいそしんでいた。
「もっと仕掛けをつくっておかないとな・・・卍丸はあまりにも簡単だと、きっと怒って帰ってしまう・・・ふふふ」
嬉しそうに独り言を呟きつつ支度するペペと時を同じくして、眠っていた卍丸は、再びくしゃみをし、大きく身震いした。

翌日も、原因不明のくしゃみと悪寒に襲われつつも、卍丸はらちが明かないと言い、宿を後にし、一路鹿の子村を目指して旅立っていった。
途中、ペペに襲われる事も無く、無事に村に着いたが、問題はそれからだった。
村人の苦情を聞き、ホテイ丸と再開を果たすと同時に、卍丸は、自分の感じた悪寒の正体をしり、憎しみの深さに愕然となったが、いくら敵とは言え、人を殺めれば憎しみが付いてくる事を理解する良い機会と自分に言い聞かせ、装備を整えた後、箱庭城へと向かった。
一行の後姿を見ていた村人達の、哀れみにも似た視線に気付かず戸を開け、群がる雑魚共を駆逐しつつ奥へ進むと、汚れきった小男と化したぺペが、一行を待ち受けていた。
その後、卍丸達にあっさりと倒されたペペは、自分の気持ちを卍丸に告げた後、いそいそと3博士の待つ京の地へと出向き、自ら改造を申し出た。

ペペからのショッキングな告白の後、失意のまま浪速へ向かった
「卍丸・・・あの上手く言えないけど・・・」
宝塚に着いたところで、絹はふと、卍丸の方を見て両手で両手を包み込んだ。
「き・・・絹?」
絹のまっすぐな視線に真っ赤になりながら見つめ返すと、絹は、まっすぐに卍丸を見据えたまま、口を開いた。
「私・・・その・・・最初はビックリしたの・・・でも、やっぱり愛に性別とか、敵とか味方とか、そういうのは関係無いんだなって」
いつに無く饒舌な・・・そして、とてつもなく勘違いしてると思われる絹の発言に、男3人は、同時に石化した。
そう、鹿の子村で、極楽はからかったのは、あくまで冗談としてだったのに、絹は本気にしている。しかも、その瞳は、何かに期待する少女の目になっている。
その視線の意味するところに気付いた卍丸は、助けを求める様に、カブキと極楽を見たが、二人はショックのあまり、術にでもかかったかの様に、あんぐりと口を開けたまま、身動きが取れなかった。
「あ・・・あの・・・絹?」
「良いの、今は何も言わないで。愛してる人といつかは対峙しないといけない運命なんて辛すぎる。でも、それが私たち一族の運命・・・」
まるで悲劇のヒロインにでもなったかの様な絹のしぐさに、卍丸は、目の前がクラクラし、立っているのがやっとの様子だったが、それでもペペの気配がなくなっていた事で、なんとか意識を持ち直し、ガーニンとの戦いに備えた。

魔海城で、苦戦を強いられつつもガーニンを倒した一行は、その直後にまたしてもペペとの望まない再会を果たす事となった。
ペペの目の前には、げんなりする卍丸と、期待に胸を膨らませた顔でペペを見る絹。
そして、可哀想な人を見る目で卍丸を見る極楽とカブキ。
ホテイ丸が人質に捕られている事もあり、4人は否応なしにペペと対峙し、対決するに至ったが、対決中に亡きバーバラの写真を見て、気力を奮い立たせているペペを見た絹は、静かな怒りをたぎらせていた。
(なんで・・・なんで卍丸の写真じゃないのよ・・・)
最後の力を振り絞る様に戦うペペに、絹の殺気はキツすぎた。
その一瞬の恐怖が隙となり、ペペは、卍丸に完全なる敗北を期し、この世を去った。

鋼鉄城を手に入れ、最後の暗黒ランに向けて旅立つ支度をしていた卍丸達であったが、絹が急に京へ行きたいと言い出し、数日間待ってほしいと告げた。
元々歩いていかねばならなかったのを一瞬で移動できる様になった事もあり、卍丸たちは、絹の申し出を受け入れ、絹が居ない間に自分達の武器の調達をしていた。
そして数日が過ぎ、絹から連絡が来たので、京へ迎えに行くと、前に来たときと、明らかに街の人々の様子が違っていた。
男たちは、まるでバケモノでも見るかの様に卍丸達を見つめ、女は好奇の視線を露骨に向ける者と、男と同じ視線を向ける者の2種類に分かれた。
そんな奇妙な視線を感じつつ、絹の居る宿へ向かう途中、不意に卍丸に声をかける者が居た。
「あ・・・足下・・・」
一行が唖然とする中、足下は、嬉しさを隠し切れないと言った様子で、卍丸の元へと近づいてきた。
「いやぁ、卍の大将♪大将も隅に置けない方でございますねぇ♪」
そう言う足下の手元を見ると、一冊の草双紙(今で言う小説や漫画)を大事そうに抱えていた。
題名は
「卍丸・愛の日記」
本に目が行ったまま卍丸が凍りついた様に固まっていると、足下が、これまた嬉しそうに口を開いた。
「大将のお連れ様の絹様♪彼女はまさに天才でございますね♪この様な文章をかかれるとは・・・♪これは早速増刷して、全国に出荷するつもりでございますよ♪」
足下は、それだけ言うと、本をとられる前に、足早に街を去っていった。
卍丸は、絹の迎えを後にして、急ぎ販売店と目される京スポの販売店へ向かうと、案の定、卍丸の草双紙が、飛ぶように売れていると言う。
卍丸が、写本用の見本を見せてもらうと、そこには、ニックこと肉助との対峙、そして、カブキとの再開、極楽のからかい、ペペとの対峙が、ストーカー女孝子も裸足で逃げ出すんじゃないかと思われる程の、濃厚な愛の物語となっていた。
「な・・・な・・・な・・・」
本を持ったまま、瘧でもついたかの様に震える卍丸から本を取り上げたカブキが本を開く、極楽がそれを上から見下ろすと、二人の顔色が、みるみる青くなり、同じ様に震えだした。
「こんにちは、今回の分の原稿・・・あら、卍丸」
何事も無かったかの様に明るく振舞う絹と、男3人の間に、これから色々なやり取りがくりひろげられるのだが、それはまた、別の話・・・

―終わり―


■あとがき■
うはぁ、やっと終わりました。
今回は、ギャグとしてのやおいと言うリクを、なんと男性の方からいただきまして、この様な展開と相成りました(^_^.)
最初はもう少し違う展開を考えていたのですが、絹が腐女子だったらと言う、絹ちゃんファンにフクロにされそうな発想が展開しまして、最後にはメチャクチャな展開となってしまいました(^_^.)
この様な物でも、少しでも笑っていただければ、幸いです♪




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