春よ来い

天外魔境2


節分を間近に控えた卍丸は、絹からの手紙に、目を丸くした。
内容は、豆まきをするので、皆に再建した法水院に来てほしいとの内容だった。
卍丸は、鬼を追い出すと言う行事故に、不安そうに両親の顔を見たが、何か考えがあっての事だろうと、卍丸を諭し、卍丸は越前に居る極楽と共に京に入り。今は京で役者をしているカブキとも合流して、近江にある、近江山へと向かった。
「・・・皆で来いと書いてあったが・・・節分・・・だよな・・・」
カブキが珍しく、歯切れの悪い言い方をすると、卍丸は腕を組んで、首をひねるしかなかった。
「父ちゃんと母ちゃんは考えがあるだろうからっておいらを送り出したけど、おいら達に守ってほしいって事か?」
「バカ、守るも何も、村人と鬼達は上手くやってるんだから、豆なんて連中に投げるわけねぇだろうが」
「あ、そっか」
「そうか、お前達は知らんのだな、綾部の豆まきを」
極楽は意味深な一言を言って、ニヤニヤと二人を見たが、それ以上は何も語ろうとはしなかった。
二人は何とかして聞き出したかったが、極楽は、妻である千代の入った大きなたらいをかかえている為、手荒な真似も出来ず、ブツブツ文句を言っている内に、綾部村にさしかかった。
「おぉ!これは火の勇者様!!良くおいでくださいました!!」
卍丸達が来るのを知っていたのか、村の入り口で待っていた村長が、見かけるやいなや、4人の元へと駆け出して来た。
「絹様も綾様も、首を長くしてお待ちでしたよ、早く行ってあげて下され」
村で食事をもてなしつつ、村長にせかされ、卍丸たちは、困惑しつつ、近江山へと向かった。
近江山は、卍丸の知っている印象とは、ガラリと変わっていた。
人間の子供達と鬼の子供達は仲良く遊んでいたり、行商人がせわしなく行き来したりと、人間の村と何ら変わらぬ賑わいを見せていた。
「・・・これが、元の近江山じゃ」
驚きで目を丸くしている卍丸に極楽が優しく言うと、卍丸は力強く頷いて、先を急いだ。
少し歩くと、出口の方から、香ばしい香りが漂ってきた。
「これ、大豆の香りじゃねぇか?」
カブキが花をヒクヒクさせて言うと、卍丸は、再び困惑の表情に戻りつつ、出口へと急いだ。
緩やかな階段を上がると、前と変わらぬ光景が、卍丸の眼下に広がった。
「いらっしゃい、皆!」
広場で豆を煎る手伝いをしていた絹が、卍丸に気付くと同時に、愛犬シロと共に、駆け寄ってきた。
「お正月に会ったばかりだから、久しぶりでも無いけど、やっぱり会えて嬉しいわ」
嬉しそうに話している絹を他所に、卍丸とカブキは、落ち着かない様子で、鍋で煎られている大豆を見ていた。
「あの豆は、鬼に撒く為の物ではありませんよ」
二人が振り返ると、階段から、綾と綾部村の村長が顔を出した。
「この辺りでは、鬼に感謝して、節分の掛け声を変えているのです。」
「え?・・・では、なんて?」
「『鬼は内、福は内』と言います。本来鬼は鬼族ではなく、陰陽師の『陰(おん)』から来ているのですよ」
「え・・・じゃあ・・・」
「そう、本来は、邪気を祓い、春を呼ぶ儀式・・・私達鬼族にとっても、重要な儀式なんです」
「そうだったんですか・・・」
やっと納得した顔になった二人を見て、絹が二人の手を引っ張った。
「さ、理由がわかったら、二人とも手伝って。このお豆を、綾部村に運ばないといけないんだから」
絹にせかされ、カブキと卍丸は、既に村に向かった極楽を追って、大鍋一杯の大豆を運んでいった。
「鬼は内、福は内!」の掛け声と共に、年男によって豆が撒かれた後、皆は村人と共に、歳の数だけ豆を食べた。
「なんじゃ、たったの千粒じゃ、腹の足しにもならんぞ」
あっと言う間に、大きな枡に山盛りになっていた豆を平らげた極楽を見て苦笑しつつ、これまた山に盛られた太巻きを持ってきた。
「恵方巻です。これもどうぞ」
「おぉ!待ってました!!」
極楽は、すぐさま太巻きを2本取り、千代と二人で西を向いて食べ始めた。
「さ、卍丸とカブキさんも食べよう」
三人は、それぞれ1本づつ太巻きを手に取ると、神社の西側に腰を下ろして、太巻きを食べ始めた。
「良かった・・・皆来てくれて」
太巻きを食べながら、絹がホッとした様子で呟いた。
「おいら、正直言うと、来て良いのか迷ったんだ。節分って鬼に豆を撒く行事だと思ってたから・・・」
「うん、他の地方はそうらしいものね」
絹は、気にしていない様子で、太巻きを頬張っていた。
「地方によって違うとは、俺様もしらなかったぜ。でも、これで無事に春が迎えられるな」
カブキがそう言うと、二人は嬉しそうに頷いた。
「去年は皆と出会って、自分の運命に立ち向かって・・・そして、皆が戻って来た・・・」
絹の発言の続きを、二人は食べる手を止めて待った。
「今年も、きっと良い年になるよね」
「あぁ、今年もきっといい年になるさ、なんたって俺様が居るんだからな、かーかっかっかっか」
いつもの調子でバカ笑いするカブキをみながら、卍丸は、嬉しそうに、太巻きを頬張った。

―終わり―


■あとがき■
えー、今回は
「年越しする卍丸達」
と言うリクエストだったのですが、さすがに松の内も明けてからと言うのも何だったので、季節にちなんで、立春の行事、節分をテーマにしてみました。
節分って、大半の地域では
「鬼は外、福は内」
なんですが、京都の綾部市では、本当に
「鬼は内、福は内」と言うらしいです。
今回は絹が関わる行事なだけに、真面目に調べて今回の話となりました。
ちなみに、今年の恵方は
「西微南」だそうです。
恵方巻は正直、最近知ったので、(私の住む地域には、恵方巻の風習が無いです)ネタに加えてみました。
内容が違いますが、喜んで頂ければ幸いです。




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