冬の贈り物

(卍丸×絹)


暮れも押し迫った12月初頭の事、絹は近江の大江山から鬼独自の超能力を使い、卍丸の元へ遊びに来ていた。
最初は緊張して卍丸以外の人物とは満足に話も出来なかった絹だが、最近は卍丸の両親や村の人々とも打ち解け、村人達も、最初は鬼の子と内心恐れていた部分があったが、根の一族の出現以来、すっかり腰の抜ける様な事態に慣れきってしまった村人達は、絹が村に危害を与えるつもりが全く無いと解った途端に普通の娘と何ら変わらぬ対応を見せ始めた為、絹にも自然と笑顔が増えていった。

「絹、今日は泊まって行けるのか?」
一家で昼食を取っていた卍丸が、茶碗を抱えたまま、シロが背負ってきた大きな風呂敷包みを見て聞くと、絹は小さく頷いた。
「父様も母様も、卍丸の所だと安心して家を出してくれるの。カブキさんの所へ行く時だけは、何故か誰かしら付いて来るし、お泊りなんて絶対許してくれないのにね、シロ?」
「ワン!」
絹が土間で餌を貰っていたシロに声を掛けると、シロは返事をする様に吠え、それを聞いた卍丸は絹の両親の意図を察して笑い出した。
「な・・・何?私何か変な事言った?」
戸惑う絹を余所に、カブキの芝居を何度か観に行った事のある卍丸の両親も、絹の話を聞いて笑いだした。
「絹ちゃん、確かにうちの小僧はカブキさんと違って、そう言う面では安心だ。今日は安心して泊まって行きなさい。」
「そうね、今日はおばさんと一緒に寝ましょ?」
「はい」
絹はそう返事をしながらも、卍丸の父が言った
『そう言う面』
の意味が理解出来ずにいたが、そんな事は初めて卍丸の内に泊まると言う期待感に、何時しか掻き消されていた。

絹が小春と共に昼食の片付けを終えて外に出ると、丁度卍丸が雑貨屋から出てきた所だった。
「あ、絹、丁度迎えに行く所だったんだ」
卍丸がそう言って駆け寄ると、その手には二枚の札と、小さな風呂敷包みが握られていた。
「それ、嵐の護符じゃない?」
「あぁ、巻物は全部カブキが持って行っちゃったからさ。・・・それよりこれから越前まで一緒に来て欲しいんだ」
「今から?」
「俺達火の一族なら、1時間で越前全部回れるだろ?・・・それに、今じゃないと駄目なんだ」
「良いわよ?行きましょ!!」
絹はそう返事をして卍丸の手を握ると、卍丸は護符をちぎって空へ投げ、二人は風となって飛騨を後にした。

「此処が越前・・・」
金沢の城下を歩きながら絹が回りを見回してると、卍丸は此処で起こった事を絹に話し始めた。
カブキの暴走、極楽との出会い、そしてはまぐり姫の事・・・。
全てを話し終える頃には、二人は人魚村の見える岬の天狗の庵の前に来ていた。
この辺りは、もう周囲がすっかり雪景色に変わり、何処を見ても真っ白な雪原が広がっていた。
「綺麗・・・」
どこまでも続く白銀の世界に、絹が感歎の声を洩らすと、卍丸は雪原にしゃがみこんで、雪を掻き分け始めた。
「確か・・・この辺りで・・・あった!!」
絹が呆然と見ている中、卍丸はあちこち掘り返した後、大声で叫んだ。
その声に驚いた絹が近寄って掘った所を覗き込むと、そこには一輪の小さな花が咲いていた。
「雪の下に・・・お花?」
「あぁ、雪割草って言って、これから一杯咲くんだけど、薬の材料になるから、摘まれる前に来たかったんだ。」
「卍丸・・・」
絹は照れた様に頭を掻く卍丸の隣に座ると、その花を嬉しそうに眺めていた。
「さてと・・・」
絹が眺めている横で、卍丸は持って来た風呂敷を広げ、中から底に小さな穴のあいたツボの様な器と、大工が使う小手に似た金物を取り出し、いきなり花の周りの土を掘り始めた。
「卍丸、何を・・・!?」
「良いから見てろよ」
卍丸はあらかじめ器に詰めてきた小石をならすと、掘り返した土を小石の上に掛けて行き、最後に根っこごと掘り返した花を器に入れた後、回りを土で埋めた。
「!?・・・これ、確か神戸で・・・」
「そう、宝塚で見たのは花壇って言うらしいんだけど、これはそれを小さくした奴で、鉢植えって言うんだってさ」
卍丸はそう言うと、鉢植えの花を潰さない様に、そっと風呂敷で包んだ。
「実は皆と別れてからさ、どうしてもこの花を絹に届けてあげたくて、ホテイ丸さんに相談したんだ。そしたらこの鉢植えの事を教えてくれたんで、二人で神戸に戻って、入れ物と、植え替える為の道具を作ってもらったんだ・・・絹は、花が好きだったから・・・」
それを聞いた絹は、真っ赤になって俯く卍丸の両手を、嬉しそうに自らの両手で包み込んだ。
「卍丸ありがとう・・・私、このお花、ずっと大事に育てるね?」
「あぁ、そう言って貰えて、俺も嬉しいよ・・・。」
卍丸がそう言って顔を上げると、絹の顔が夕焼けで赤く染まっていた。
「あ!?もう夕方だ!!早く帰らないと、父ちゃんに殺される!!」
「あ!・・・本当!・・・急ぎましょう、卍丸!!」 ふたりは互いの手を握ったまま護符をちぎって飛騨へと戻って行った。

翌年、無事復興をとげた大江山には、所々に小さな花壇が設置され、絹の部屋に置かれた植木鉢には、毎年雪割草が可憐な花を咲かせ続けたと言う・・・。

―終わり―


■あとがき■
今回初めての天外のDLF小説と言う事で、やっぱり王道である2の卍丸×絹で行ってみました。
この二人は良いですね♪
絹が泊まりに来ても全然Hっぽくならないので、安心してお泊りネタが書けました。(笑)
ちなみに今回のテーマは「お歳暮」です(笑)




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