迷い猫(ゾロ) |
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これはまだ、ゾロが賞金稼ぎとして生計を立てていた頃のお話。
(ちっ、なんなんだよこの街は・・・)
鷹の目のミホークを追い求め海に出て以来、故郷への帰り道を見失ったゾロは賞金稼ぎとなり、気付けば
「賞金稼ぎのゾロ」
と言う異名まで取るほどまでに剣の腕も上達していた。
ところが・・・
「・・・腹減った・・・」
この街ローグタウンには、悪党らしい人物の影さえ感じられなかった。
何でも、この街に来たばかりの海軍の新人大佐と、賞金稼ぎの間では知らない者はいないとされる
「子連れのダディ」
が居る物だから、大物の賞金首はおろか、小物の悪党までナリを潜めてしまい、探し出す事は困難を極めていた。
他の土地へ行くにも、既に路銀を使い果たしてしまい、現に此処に到着してから3日も経つというのに、満足に食事も摂れなかった。
「・・・最悪だな」
ゾロは頬を伝う冷たい感触に気付くと、空を睨み付けたあと、雨宿りの為に休業中の店の軒下へと身を寄せた。
(・・・俺は此処で終わるのか?)
雨の冷たさからなのか、空腹からくる物なのか、ゾロは自然と気弱になっていった。
(どうせ死ぬなら、せめて奴に会ってから死にたかったな・・・)
壁に背を預け、そんな事を考えていると、足元に何か擦り寄ってきた。
(・・・?)
ゾロが下を見ると、一匹の子猫がゾロに体を擦り付けていた。
「・・・」
その猫は飼い猫らしく、首に赤いリボンをしていたが、道に迷ったのか雨に濡れ、震えながらもゾロに擦り寄ってくる。
ゾロはその猫を抱き上げると、自分が屈み込んで猫をシャツの中へと入れた。
(お前も迷子か?)
シャツの中から顔を出した猫に、ゾロは話し掛ける様に見つめた。
猫はその問いに答える訳も無く、静かにゾロの胸に抱かれていた。
(俺も帰りてぇな・・・)
そんな事を考えたら、不意に目頭が熱くなった。
その時、遠くから水を弾く音と共に、誰かが隣へとやってきた。
「ふぅ・・・一気に降ってきたわね」
その声に思わず顔を上げたゾロは、不意に声の主と目が合った。
「可愛い猫ね。貴方の猫?」
声の主は、猫に気付くとゾロに向かって話し掛けてきた。
「いや、迷ったらしい」
ゾロは涙を見られない様に下を向いて答えた。
「そう・・・じゃあ、雨が止むまではお家へは帰れないわね・・・」
女はそう言うと、何かを思い出したかの様に手を打った。
「ねぇ、貴方お腹空いてない?」
「何だよいきなり」
慣れなれしく話掛けてくる女に驚きつつも、ゾロはそんなに嫌な感じはしなかった。
「友達の家がここから近い事を思いだしたから、其処でご飯食べようと思って」
「だったら、あんた一人で行けばいいだろ?」
ゾロはなんとなく面白くなくなって、子供の様に横を向いて答えた。
「・・・でも、その子多分、お腹空いてるわよ?」
女は子猫の口元に指を差し出すと、子猫は、指を噛む様にして舐めだした。
「だったら猫だけ連れて行けばいいだろ?」
「でも、その子は貴方と離れたくなさそうよ?」
その一言に諦めを感じたゾロは、子猫を抱いたまま立ち上がった。
「じゃあ、私は其処で食べる物買ってくるから、ちょっと待っててね」
女はそう言うと、向かいにある食料品店に走って行った。
「・・・変な女」
ゾロはそう呟きつつも、その不思議な雰囲気に包まれた女に対して妙な安心感を感じていた。
「お待たせ」
暫く待っていると、女が買い物袋を抱えて戻ってきた。
「傘が一本しか売ってなかったから二人で入ろう」
女はそう言うとゾロを傘の中に入れ、雨の街を港の方へ向かって歩き始めた。
二人が無言のまま歩を進めると、港に程近い場所に、一件の洒落た造りのアパートが見えた。
「あそこよ、行きましょう」
女はゾロを引き連れて、アパートの中へと入って行った。
外階段を上り最上階の一番奥のドアの前に立つと、女はノックもせずにドアを開けて中へと入って行った。
「何してるの?早くいらっしゃい」
女に促されるままに中に入ると、其処は大きめのベッドしか見当たらない生活感の無い部屋だった。
「あんたの男の部屋か?」
「違うわよ。泊まった事はあるけど寝た事は無いから」
ゾロのぶしつけな質問に対しての、あまりにもストレートな答えに、聞いたゾロの顔が真っ赤になった。
「まったく・・・あいつも相変わらずだな・・・」
女はそう言うと、真っ直ぐに台所へ向かい、料理を始めた。
「でも、ただの友達の家に勝手に入っていいのかよ」
落ち着かない様子で辺りを見回すゾロを見て、女は笑った。
「心配しなくても良いわよ、ちゃんと連絡しておいたから」
女はそう言いながら、部屋の隅に置いてあった小さなテーブルを、ベッドサイドまで持ってきた。
「ねぇ、そろそろ降ろしてあげたら?」
ゾロがシャツを見ると、先程まで眠っていた子猫が匂いにつられて目を覚ましていた。
子猫は床に降ろされると、今度はベッドに座ったゾロの膝の上に飛び乗ってきた。
「よっぽどその猫に気に入られたみたいね」
女はそう言いながら次々と出来たての料理を運んできた。
「はい、あなたはこれね」
女はテーブルの隅に、人肌に暖めたミルクの皿を置いて、子猫をテーブルに乗せた。
「さ、貴方もどうぞ」
女はニッコリと笑ってゾロに言うと、空腹の限界を感じていたゾロは、物も言わずに食事を食べ始めた。
「・・・あんたは食べないのか?」
暫くして女が食事に手を付けていない事に気付いたゾロは、女に声を掛けた。
「私はいいわ。貴方達と会う前に食事は済ませたから」
「・・・だったら何故俺に飯を食わせたりしたんだ?」
ゾロは手を止め、疑いの眼差しを女へと向けた。
「猫が好きだからってのは、理由にならない?」
女は不敵な笑みを浮かべながらゾロに答えた。
「・・・」
「雨、止んだみたいね」
女は、話をすりかえるかの様に言うと、ベッドを降りてテラスへと続く大窓を開けた。
「・・・貴方ね、私の友達に似ているのよ。それでなんとなくほっておけなくて・・・ね」
女は照れ臭そうに背を向けたまま本音を語った。
「そいつに惚れてるのか?」
食事を再開したゾロは、いけないと思いつつも女に質問をした。
「・・・そうかもしれないわね・・・」
女は寂しそうに返事を返して、そのままテラスへと出て行き、煙草に火を点けた。
「食事は終わった?」
「あぁ、ご馳走様」
女が振り返ると、全ての皿が空になっていた。
「じゃあ、飼い主さんも来たみたいだから下へ行こうか?」
二人が下へ降りると、小さな女の子が入口でもじもじと立っていた。
「この子、あなたの猫?」
女はゾロから猫を受け取ると、屈み込んで少女に見せた。
「あ、ミント!!」
少女は子猫を受け取ると、嬉しそうに抱き抱えた。
「お友達のお家に行って帰ってきたら居なくなっててびっくりしてたら、パン屋のおばちゃんが此処に行きなさいって言うから来たの・・・」
女はもじもじしながら話した少女の頭を軽く撫でた。
「偉かったわね」
「うん、ありがとうお姉ちゃん!!」
誉められた事が自信に繋がったのか、少女は元気に礼を述べた。
「お礼なら、後ろのお兄ちゃんに行ってあげてね。お兄ちゃんが今までずっとミントの世話をしてくれていたから」
女が振り向きながら言うと、少女は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに明るい表情に戻った。
「ありがとう、お兄ちゃん!!」
「あ・・・あぁ」
面と向かって礼など言われた事の無かったゾロは、真っ赤になって目を反らした。
「さぁ、今度はあなたのお母さんが心配するから、早くお帰りなさい」
「うん、じゃあバイバイ!!」
少女は猫を抱えて、もと来た道を戻って行った。
「さてと、私も片付けに戻るか・・・」
女が振り返ると、寂しそうな目をしたゾロが少女の後ろ姿を見ていた。
「・・・片付け、手伝って」
女の言葉に安心した様にゾロは上に戻っていった。
片付けを終えた二人は、再び出会った店の軒先に居た。
「じゃあ、私も仕事に戻るから・・・」
言いかけた所で、女はいきなりゾロに抱きついた。
「な・・・」
「しっ!!」
ゾロが真っ赤になって立ちすくむ目の前を一組のカップルが通り過ぎて行った。
「貴方、腕に自信ある?」
女は抱きついたまま小声で囁いた。
「あぁ」
「・・・だったら、あの二人を捕まえて海軍に連行しなさい。当面の生活費位にはなるわよ?」
その一言に驚いたゾロが女を見ると、女の顔が先程とは打って変わった様に引き締まっていた。
「じゃあ、私も帰るわね。・・・頑張りなさい、『賞金稼ぎのロロノア・ゾロ』君」
女はそう言うと、カップルとは反対の方向へと駆け出して行った。
その後、女に言われた通りにカップルを捕まえて海軍に連れて行くと、二人はかなり悪質の詐欺氏と言う事が解かり、ゾロの懐には高額の賞金が手に入り、ゾロもまた航海を続ける為に出航した。
その夜、女の伝電虫が鳴り出した。
「もしもし?」
『俺だ』
「珍しいな」
『今日、俺の部屋に来ただろ?』
「解かった?」
『あれだけ綺麗になっていればな・・・それより、何故顔を出さなかった』
電話の相手は、部屋を使われた事より、会えない事を怒っていた。
「悪ぃ、顔出そうと思ったら迷い猫を二匹も拾っちゃったもんでね」
女は悪びれる様子も無く言うと、相手の溜息の音が聞こえた。
『お前も相変わらずだな・・・』
相手の一言に、女は苦笑を洩らした。
「そうだな、でも・・・また会いたいって思ったのは、あの子が初めてかも・・・」
『・・・今から来れるか?』
相手は苛立った様子で女に聞いた。
「無理さ、だって・・・」
女は窓から外を見た。
「もう、グランド・ラインに入るところだからな」
―終わり―
■あとがき■
すいません、またルリを出してしまいました。(苦笑)
個人的に気に入っているのもあったし、今回はゾロ単独の話と言う事で、全くルフィ達と関係無い人物という事で出してしまいました。(^_^;)
電話の相手は聞くまでもありませんね(爆)
まぁ、この二人の関係は後々語るかもしれません。
こんな物で良ければ、是非とも貰ってくだせぇ。