夏の日の少年(スモーカー) |
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蒸し暑い夏の日差しの下、ローグタウンの細い路地を、一人の少年が走っていた。
少年の名はスモーカー。まだ顔にあどけなさの残るこの少年は、街の中心にあるメインストリートを目指していた。
(早くしなきゃ・・・)
少年がメインストリートに着いた時には既に人だかりが出来ていたが、少年はそれを見て時間に間に合った事を確信し、人込みを掻き分けて最前列へと飛び出した。
その直後。あの人物は通った。
背丈は2メートル以上はありそうな大男が、手枷をされて歩いている。
少年は、初めて見るその男の神々しいまでの貫禄に、一瞬にして心を奪われ、男から視線が外せなくなった。
手枷の男が少年の目の前を通り過ぎる時、二人の視線はピタリと合い、男は少年に向かって笑いかけた。
それは、少年が今まで思い描いてきた海賊のイメージとは全く違う暖かな笑顔。
これから待つ死への恐怖など全く感じていない様子のその男を見て、少年は驚きを隠せなかった。
そして首が飛ぶその直前。彼は少年に見せたのと変わらぬ笑みを残して、この世から消えた。
そして22年の月日が流れ、少年は海軍大佐と言う称号を携えて、この地へと戻ってきた。
(此処も変わらねぇな・・・)
世界最弱の海。
男は最初、此処への辞令に対して強い不満を抱いていた。
だが、つい先日報告のあった魚人海賊団を一日で壊滅したと言う無名の海賊団の存在が、男の好奇心と期待感を煽った。
(今度こそ・・・)
男は最近の海賊達の卑劣さと弱さに嫌気が差しつつも、心の何処かで、第二のゴールド・ロジャーを求めていた。
そして、港で初めてその少年に出会った時、男の期待は大きく膨らんだ。
顔も知らない三千万ベリーの賞金首・・・そして、少年の日に憧れた偉大なる男と同じ目を持つ少年が同一人物と解るまでに、さほど時間は掛からなかった。
(やっと逢えた・・・)
男は、少年の正体を知った途端、期待で胸を躍らせた。
だが男の期待は、広場での闘いにより、失望へと変化した。
(やはりこの程度か・・・)
男は何処かへ飛んで行った少年を追う気にもなれずに時を待った。
あいつが本物ならば、必ずあの場所へと戻ると信じていたからだ。
そして、男の思惑通りに少年は処刑台のある広場へと舞い戻り、バギーの仕掛けた罠にはまった。
通報を受け、駆けつけた男は、首を固定され、身動き出来ない少年を見て、絶望にも似た失望感を憶えた。
(こいつだと思ったのに・・・)
少年に対する悔しさで歯軋りしながら様子を見ていると、死を目前に少年が、仲間に別れを告げた後に満面の笑みを浮かべた。
(まさか・・・)
突然の落雷で、少年が一命を取り留めたのを確認するまで、男はショックで瞬き一つ出来ずにいた。
(やっと逢えた・・・やっと・・・)
男は待ち望んだ人物に出会えた喜びに打ち震えながらも、その人物を捕らえる事に全精力を傾けた。
だが、運命は少年に味方し、少年は男の手を逃れて、大海原へと旅立って行った。
その瞬間、男の運命もまた大きく変わり始めた。
少年を追いかければ見えるかもしれない・・・
少年の日に見た、あの偉大なる海賊王の再来を・・・
―おわり―
■あとがき■
今回初めて本当に一人のお話を書きました。
実はこれ、前々から一度書いてみたいと思っていたお話で、大佐はルフィに対して何を望んでいるのかを書いてみたかったんですが、あまりにも皆様が解り切っているベタなネタでどうもすいませんって感じですね。(苦笑)