Coffee Break

(ゾロ×ロビン)


真夜中の洋上で、ゾロは見張り台の上でうたたねをしていると、階下からハシゴのきしむ音が聞こえてきた。
その音に目を覚ましたゾロが腰に差した刀に手をかけると、きしみの音が大きくなるにつれ、コーヒーの香りが、ゾロの鼻をくすぐった。
立ち上がったゾロが、いぶかしげに下を見ると、マストから伸びた沢山の腕が、コーヒーの乗ったお盆を上に上げてくる。
ゾロはムッとしたまま届いたお盆を受け取ると、直後にロビンが顔を出した。
「こんばんは、剣士さん」
返事もせぬまま脇にどいたゾロの隣に下りると、ロビンはそう言って微笑んだ。
「・・・何のつもりだ」
「コーヒーが飲みたくなったけど、何だか話し相手が欲しくなったから来ただけよ。いけない?」
探る様なロビンの視線に、ゾロがふと視線を落とすと、ロビンはお盆を受け取り、床に腰を下ろした。ゾロが少し間を空けて腰を下ろすと、ロビンは運んできたコーヒーを差し出した。
「温かい内にどうぞ」
ゾロは無言のままコーヒーを受け取り、口に含むと、それまで感じなかった洋酒の香りが口いっぱいに広がった。
「これは・・・?」
「アイリッシュコーヒーって言うの。中にブランデーが入っているわ。貴方なら、こっちの方が喜ぶかと思って」
「・・・なるほど、美味い」
ゾロは素直にコーヒーに舌鼓を打つと、その様子をロビンは嬉しそうに眺めていた。
その視線に気付いたゾロは、ロビンとは打って変わって、冷たい視線をロビンに向けた。
「俺は、まだお前を信用してないからな」
「それはそうでしょうね。もし、私が貴方だとしても、信用してないと思うもの」
ロビンはそう言って少し寂しげな笑みを浮かべると、正面を向いて、空を仰いだ。
「・・・でも、こうしてゆったりと空を見上げられるなんて、何年ぶりかしら」
満天の星空を見つめていたロビンの表情が、徐々に曇っていくのを、ゾロは見逃さなかった。
「・・・クロコダイルの事か?」
ゾロの言葉に、ロビンの肩がピクリと震えた。
今日届いた新聞に、ロビンのかつてのパートナーであった、クロコダイルの処刑が行われた事が大々的に記されていた事を、ゾロは覚えていた。
「・・・惚れて・・・いたのか?」
ゾロは何故自分がそんな事を気にするのか、何故クロコダイルに対して言い知れぬ怒りを覚えるのか気付かぬまま、ロビンに質問をぶつけた。
「・・・・・・彼は、ただのパートナーでしかなかったわ・・・互いに必要だったから一緒に居ただけ」
「・・・そんな風には見えないけどな」
ゾロがムッとした顔で横を向くと、ロビンは驚いた顔でゾロを見た。
「・・・なんだよ」
視線に気付いたゾロがロビンを見ると、ロビンは二人の間に置かれた盆をどかし、ゾロの隣へ寄り添うように座った。
「お・・・おい」
互いの腕が触れ合うと同時に、ゾロの体温が高まっていく。
暗くて互いの顔色までは伺えないが、ゾロの顔は真っ赤になっていることは、容易に想像できた。
「クロコダイルはね・・・今まで関わってきた海賊達の中で、唯一私に手を出さなかった男なの・・・」
「・・・お前・・・海賊になったのって・・・」
「女が海で生きていくには、それしかなかったのよ・・・航海士さんが軟禁されていた海賊や、クロコダイルみたいに、女に手を出さない男なんて、ほんの一握り・・・彼女は運が良かったわ・・・」
「・・・」
「クロコダイルは、単純に道具として私をみていた。そしてここの船長さんは、私を仲間として迎えてくれた・・・」
「・・・で、俺に抱かれて、仲間と認めろと?」
その言葉に、ロビンは小さく笑った。
「半分当たりよ。私は貴方に抱かれたくて来たんだから」
その言葉に、ゾロの心臓は早鐘を打った様に高鳴ってゆく。
「ただ、仲間と認めてほしいなら、抱かれようとはしないんじゃない?」
いつしかロビンは、よろめいてバランスを崩したゾロの上に馬乗りになっていた。
「女にはね、たまに男に抱かれたくて仕方なくなる時があるのよ・・・もちろん、抱かれたいと思う対象者が居ての話だけどね・・・」
ロビンの顔が近づき、鼻先に吐息がかかる。
「私が怖い?逃げるなら、逃げても良いのよ?」
挑戦的なロビンの囁きに、ゾロはロビンの背中に手を回し、強引に体を引き寄せ、唇を重ねた。

朝焼けが星を隠す頃、二人は全裸のまま、一枚の毛布に包まっていた。
「・・・初めてだったの?」
ゾロの肩に寄り添ったままロビンが聞くと、ゾロは無言のまま小さく頷いた。
「そう・・・」
ロビンは嬉しそうに小さく頷くと、立ち上がって服を着始めた。
「降りるのか?」
「えぇ。そろそろコックさんが起きる頃でしょ?」
服を身に付け、振り返ったロビンの顔には、いつもの冷静さが戻っていた。
「・・・ありがとう」
ロビンはそう言い残すと、盆を先に下ろしたあと、ゆっくりと梯子を降りていった。
「・・・おい」
ゾロの声に、降りていた手を止め、顔を上げると、ゾロが下を見下ろしていた。
「その・・・また・・・昨日みないな事になったら・・・俺に言えよな」
真っ赤になって言うゾロを見て、ロビンはにっこりと微笑んだ後、下へと降りた。
「剣士さん。約束するわ。貴方だけに言うから」
見つめたままに真っ赤になっているゾロに向かって、ロビンはウインクを返した。

―終わり―


■あとがき■
えー、長らくお待たせしましたが、やっと出来上がりました。
こちらは数年前に同人誌として出した小説のリニューアル版です。
えー、ロビンは何を思ってゾロに身を任せたとか、ゾロの気持ちみたいなものが上手く伝われば良いんですけどねぇ・・・
今回は、私にしては、珍しくダークな展開となってまして、ロビンの過去も自分なりに考えて、少しだけ書いてみました。
ロビンの過去は、あまり語られませんが、海に出てから、さほど幸せを感じていないんじゃないかなぁと言うのが私の見解と言う事と、現実にありうる事実として、ロビンの過去を作成させていただきました。
クロコダイルに関しては・・・難しいところですねぇ・・・
色々と課題の残る出来とは思いますが、喜んでいただければ幸いです。




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