あじさいの歌

(サクラ大戦/大神×紅蘭)

「つまんないー!!」
6月の梅雨空を、中庭の見える窓から眺めながら、本当につまらなそうに声を上げたのは、連日の雨で、外に出られずにいるアイリスであった。
「アイリスは雨嫌いか?」
「毎日降るのが嫌」
アイリスの隣に来た紅蘭が声を掛けると、アイリスは口を尖らせて答えた。
「それやったら、こんなん作ってみたらどうや?」
そう言ってアイリスの目の前に差し出したのは、小さなてるてるぼうずだった。
「可愛い。なにこれ?」
「てるてるぼうずって言うんやて。雨の上がるおまじないらしいで?」
「ふーん。さくらに聞けば解るかな?」
「そうかもしれへんな。日本の事は日本人に聞くのが一番や。」
「そうだね。行って来る!」
アイリスは言い終わると同時に、階段に向かって走り出して行った。
「・・・紅蘭は、雨は好きかい?」
その声に振り返ると、其処には微笑んでこちらに向かってくる大神の姿があった。
「あ、大神はん」
「やあ」
大神はそう言うと、先程までアイリスが立っていた場所に立って、中庭に目をやった。
「そのてるてるぼうずはどうしたんだい?」
「これか?ファンの子がくれたんや。ここの所雨ばっかりやろ?」
紅蘭は嬉しそうに言って、大神の目の前に、てるてるぼうずを差し出した。
「へぇ、随分可愛らしいてるてるぼうずだな」
大神は、手のひらにすっぽりと収まる大きさのてるてるぼうずを眺めて微笑むと、思い出した様に口を開いた。
「ところで紅蘭は、雨は好きなのかい?」
「そうやな・・・今の時期の雨は結構好きやな。」
紅蘭はそう言うと、窓の下に咲いたアジサイに目をやった。
「なぁ、大神はん。あじさいの花って、一雨ごとに色が濃くなる言うやろ?それって、人を想う感情に似てると思わへん?」
「人を想う感情か・・・」
「最初は何も感じなくても、時間が経つごとにそれが色々な感情へと変化していくやろ?友達とか・・・その・・・恋人とか・・・」
「!」
大神が驚いて紅蘭を見ると、紅蘭は真っ赤になって俯いてしまった。
「あ・・・えっと・・・その・・・」
大神がしどろもどろになって答えを探すように外を見ると、雨に濡れたあじさいに、眩い光が反射していた。
「雨・・・止んだな。外へ出ないか?」
大神はそう言うと、真っ赤になった紅蘭の手を掴んで、中庭へと出た。
「・・・あじさいは、確かに人間に似てるよな。土壌の性質によって、色が変わったり・・・」
そう言いながら、大神は花の一つを手にした。
「こんなに小さなはながたくさん集まって、綺麗な花になる。皆で協力して、美しくなってる。・・・なーんて、少しキザだったかい?」
大神はそう言うと、少し赤くなって紅蘭を見ると、紅蘭は首を小さく横に振った。
「うちは、何色に染まるんやろ・・・大神はんの色って・・・」
「俺色か・・・それは・・・」
言いかけたところで、大神の唇が、不意に紅蘭の唇と重なった。
「俺だけの色じゃなくて、二人の色が綺麗に出るといいな。」
そう言って大神が指差した先には、ピンクに近い紫色のあじさいが、見事に花を咲かせていた。

―終わり―

■あとがき■
終わったー!!
まずは、安保さん。お誕生日おめでとう御座います!!
いやー、何とか6月中に間に合って良かったです。
サクラ自体久々なので、正直どうなる事かと思いましたが、何とかまとまって良かったです。

今回のタイトルは、珍しくちゃんと意味がありまして、実は原由子さんの
「あじさいの歌」
と言う曲をモチーフに考えました。
この曲大好きなので、絶対タイトルに使いたかったのと、歌詞に
「段々好きになって、そして、段々恋になる」
と言う一説があります。
やっぱり6月はこれでしょ!って事で強引にお話に組み込んでみました。
まぁ、中にはあじさいの花びらと思われている部分はガクです。と言う方もいらっしゃるかもしれませんが、今回はあえて花びらと言う表現にさせていただきました。

この様な物で宜しければ、謹んで進呈させて頂きます。

2004年6月20日
青海物語
桜葉陣内


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