つまさき(天外魔境2/カブキ×絹?) |
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倫敦での戦いも終わり、再び平和になった京の都にて、帰国後すぐに北座に戻ったカブキが、看板役者として頑張っていた。
そんな中、いつもの様に興行を終えると、カブキの席に、花束が置かれていた。
「お、絹が来てるのか。おい、絹は待たせてあるんだろうな?」
カブキを兄の様に慕う絹に他の女性に感じた事の無い好感を抱いているカブキは、すぐさま絹の居る裏口へと向かった。
「よぉ、待たせたな」
急いでいつもの派手な着物に着替えたカブキが声をかけると、絹は、いつもの明るい笑顔では無く、初めて会った時の様な、憂いのある横顔へと戻っていた。
「・・・どうした?おっ母さんとでも喧嘩でもしたのか?」
絹は黙って首を横に振り、付いてきたシロも、心配そうに絹を見上げるのみだった。
「・・・とりあえず、こんなところじゃ話もできねぇな、場所を変えよう」
カブキはそういうと、いつも出て行く表口では無く、人気の無い裏口からこっそりと街へ出て、居住区にある一件の料理屋へ入り、座敷を借りた。
店主はまた女を引きずり込むのかと、最初ニヤリとしたが、連れが絹とわかると、また京で異変でも起こるのかと表情を引き締め、女中へ離れへと案内する様命じた。
部屋のふすまが閉じられると、カブキと向かい合わせに座った絹は、大きな安堵の息をついた。
「・・・?どうしたんだ?お前今日変だぞ」
床の間を背に座ったあぐらをかいたカブキが、不思議そうに顔を覗きこむと、絹は大きなため息をついた後、カブキを見た。
「・・・カブキさん、伊賀に居た、菊五郎はご存知ですね?」
「あぁん?菊五郎って、あの派手バカのことか?」
絹は黙って頷いた後、またため息をついた。
「その人、生きていたのですが、何処で知ったのか、私の事を見初めたらしく、しつこく付きまとってくるんです。
敵意は感じないし、今更火も根も無いので、討伐する訳にも行かなくて困っていて・・・」
「ちっ、あのバカ派手男、まだ生きてやがったのか・・・しかも絹にちょっかいだぁ?・・・どうしてくれよう」
「それで、私、あまりにもしつこいので、
『私、カブキさんみたいな背の高い殿方が好みなんです!』
と、つい・・・そしたら、諦めて帰ってくれたみたいなんですけど、また来る気がして・・・」
そう言って絹が顔を下に向けると、カブキは思わず苦笑を洩らした。
「あ・・・あいつが絹に?・・・しかも背が低いとハッキリいわれ・・・くっくっく・・・」
カブキが肩を震わせて必死で大笑いするのを堪えている頃、菊五郎は、石見にある足下村へと来ていた。
「おや、菊五郎の大将。首尾の方はどうでやんした?」
「・・・てめぇら、これじゃかかとだけ高くなってるから、背伸びしたのと変わらないと知ってて売りつけやがっただろ・・・」
菊五郎がそう言って床に投げつけた靴は、いわゆるシークレットブーツと言う奴で、全体的に上げ底にはなっているのだが、実際はハイヒールの様な構造なので、爪先立ちの形になるだけで、身長にさほど影響が出ないのだった。
「絹に見抜かれた挙句、終いには
『私、カブキさんみたいな背の高い殿方が好みなんです!』
だと・・・この俺様の繊細な心はズタズタだぜ・・・」
上がり框に腰をかけ、がっかりと頭を垂れる菊五郎の背中を見ながら、足下は何かを閃いた様子で、四方に散った兄弟に向け、手紙をしたためた。
「菊五郎の大将、そんなに落ち込まないで下さいよぅ♪あっしが倫敦で良い靴を見つけましたからね、今度は大丈夫でやんすよ。・・・しかし、これは舶来品の高級な靴なので・・・」
「かまわん、金ならいくらでも奪い取ってくるから、さっさと新しい物を用意しろ。ただし、効果がなければ・・・解っているな?」
いくらショボいとは言え、一度はボスとして君臨した菊五郎の睨みにも顔色一つ変えずに足下は微笑むと、子分に店を任せ、何処へともなく消えていった。
それから数日後、菊五郎の隠れ家に足下はやってきた。
「菊五郎の旦那、大変お待たせしました。こちらにございます」
菊五郎は差し出された風呂敷を開けると、歓喜の声を上げた。
「おぉ!これこそまさに俺様の求める靴だ!柄も良い具合じゃねぇか!」
「おっといけない、実はこの靴、こちらの着物と合わせるともっと良いでやんすよ♪なんと言っても、倫敦から直接仕入れた品物でございますからね」
そう言ってもう一つの風呂敷から一着の洋服を取り出すと、菊五郎は再び歓喜の声を上げた。
「おぉぉ!これは何て俺様好みな着物なんだ!良いぞ、この着物も買おう!いくらだ!?」
菊五郎は足下に金を渡すと、すぐさま着替えを済ませ、絹の元へ急いだ。
その頃、菊五郎の動向を感じ取った絹は、急いでカブキに連絡を取り、カブキもまた絹の元へ急いだ。
「よぉ、愛しの絹。どうだ?今日の俺様は一味違うだろ?」
菊五郎の歯の浮いたセリフは耳に入らず、絹が菊五郎の格好にただただ唖然とする中、嵐の札を使ったカブキが、文字通り風の如く姿を現した。
「よぉ、ハデ馬鹿。久し・・・何だその格好は!?」
カブキが驚いて指差したその先には、靴底が50センチ以上はある特注のロンドンブーツにそれを隠す様に履かれたベルボトムのGパンと、頭はまげを外して髪を下ろし、その上にはチューリップ帽。そして、目にはやたら大きな丸いサングラスがかけられていた。
「て・・・てめぇ・・・それは倫敦の最新の服じゃねぇか・・・」
「ふっふっふ、どうだぁ絹、こんな時代遅れのハデ男より、俺様の方がよっぽどいなせだろ?背も伸びたし、これで俺の嫁になるのは決まりだな」
「・・・くそぅ」
悔しそうに歯噛みするカブキを尻目に菊五郎が絹に一歩近寄ると、絹は一歩後ろへ下がった。
「何だ?俺様が眩しすぎて照れているのか?くっくっく・・・それは仕方ないよな、俺様の様な伊達男に口説かれた事など無いだろうしなぁ」
絹は、菊五郎のやたら勘違いな発言に、顔を引きつらせながらも後ずさりを繰り返していると、後ろに人の気配を感じた。
「!? 卍丸!」
「やぁ絹。ただいま」
「!!!!!!?」
菊五郎とカブキの二人は、突然現れた卍丸に一瞬驚いた後、カブキが飛び出し、絹を庇うように卍丸の前に立ちはだかった。
「絹!何騙されてるんだよ!こいつは卍丸じゃなくて、弥陀ヶ原洞窟に居た卍くずしだろうが!!」
「ちょっ・・・カブキさん・・・」
「そうだ・・・こいつは間違いなく根の卍くずしじゃねぇか・・・俺様以外にまだ根の生き残りが居たとはな」
菊五郎もまた、絹を庇うようにカブキの隣に立つと、卍丸は困惑した顔で二人を見た。
「・・・何言ってんだ、二人して・・・ってか、何でここに菊五郎が居るんだ?」
「黙れ!卍丸はもっとチビで田舎臭いクソガキだ!絹は騙せても、このカブキ様は騙されないからな!」
「隣のクソ馬鹿は知らんが、この菊五郎様が間違えるわけがなかろうが!」
「何だと!?このピンクのとぐろ巻き野郎!」
「てめぇこそ黙れ!何年同じ格好してやがるんだ、この時代遅れの伊達男くずれが!」
「ぬわぁにぃぃぃぃぃ」
「・・・いい加減にしてください!」
二人のにらみ合いを後ろで見ていた絹は、二人を鬼の力で突き飛ばすと、まっすぐ卍丸の隣へと向かった。
「二人とも、あれから何年経ってると思っているんですか?私も卍丸も成長するに決まっているじゃないですか」
「うっ・・・」
突き飛ばされ、しりもちをついたままの姿勢で改めて卍丸と絹を見たカブキは、改めて成長し、すっかり大人となった二人を見て、時の流れを知った。
「・・・じゃあ・・・京スポに載ってた、お前たちが別れたってのは・・・」
「カブキさんが倫敦へ行くちょっと前、私達と卍丸の両親は、揃って湯治に出かけたものですから、二人とも家を留守に出来なかっただけです」
「じゃ・・・じゃあ・・・『私、カブキさんみたいな背の高い殿方が好みなんです!』ってのは・・・」
「・・・菊五郎さん、15歳の時の卍丸しか知らなかったじゃないですか。卍丸だと説得力が無いからカブキさんと言っただけです」
話を聞き、菊五郎とカブキの顔は段々と青ざめ、唇がわなわなと震え始めた。
「じゃ・・・もしかして・・・まだ卍丸と・・・」
「あれ?絹から聞いてなかったのか?おいら達、この秋に祝言挙げることになってるんだよ。互いに支度があるから、最近あまり会えなかったんだけどさ」
背が高くなり、すっかり男前に成長した卍丸からの衝撃の一言に、二人の頭上には、見えない巨石が落ちてきた様なショックを受けた。
「それに・・・」
「私、菊五郎さんやカブキさんみたいな服装の方と一緒になるのはちょっと・・・戦友としてなら良いんですが、夫にはしたくありませんから」
放心状態の二人にそう言い放った絹の影に鬼の角がハッキリと見えたのは、ここだけのひ・み・つ。
―終わり―
■あとがき■
大変ご無沙汰で御座いました。
久々にキーを叩いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
今回はカブキ×絹と言うアイディアをいただいたのですが、ギャグにしようとした時から必然的に卍丸×絹にしようと考えていました。
で、卍丸の成長した姿は、卍くずしみたいになるんだろうなと容易に想像がついたので、結構書きやすかったです。
ただ、何分にもかなり久々なもので、笑っていただけるのか不安ですが、喜んでいただければ幸いです。
最後になってしまいましたが、今回のアイディアをいただいたGSX様には、心よりの感謝を込めて、この作品を進呈したいと思います。