世界一

(天外魔境・風雲カブキ伝/カブキ×阿国)


「・・・カブキは?」
此処はクイーンズの街外れにある一軒のホテル。
昨日から姿の見えないカブキに対し、阿国は苛立ちを隠せずにいた。
「全く、この忙しい時に、なに考えてるの?あの馬鹿!!」
「・・・」
「・・・富士山・・・あんたは良いわよね・・・男だから・・・」
無言で阿国を見つめる富士山を見て、阿国は不意に視線を落とした。
「カブキさんが・・・好きなんでごんすね?」
「違う!・・・ただ・・・姿が見えないとイライラするだけ・・・」
「・・・こんな時、世阿弥さんが居れば、きっと良いアドバイスも貰えるでごんすが・・・」
二人は見詰め合うと、深い溜息をついた。
「レイナ姫との一件があってから、少しは自重すると思ったのに・・・」
阿国が、ベッドに座って溜息を付くと、眼下には、こちらに向かって一直線に走ってくるカブキの姿が見えた。
「よぉ!ただいま。いやぁ、俺様を待つ女達に土産の一つも買って帰らねぇと、伊達男の名が廃るってもんだぜ・・・」
パンッ
カブキが言い終えるとほぼ同時に、カブキの頬に真っ赤な手形のついたのは、その時だった。
「あんたって、最低!!」
阿国はそう言うと、そのまま窓から飛び降りて、外へと飛び出して行ってしまった。
「・・・」
叩かれた頬を押さえたまま動こうとしないカブキを、富士山は不意に抱え上げて窓から放り出した。
「阿国さんを連れて帰ってくるまで、此処へ帰ってきては駄目でごんすよ!!・・・二人共、もう少し素直になったらどうでごんすか?」
窓から顔を出して怒鳴った後、心配そうに声を掛けると、カブキは小さく笑った後、街の外へと走って行った。

「捜したぜ」
ロンドン橋の袂で、ぼんやりと川を眺めている阿国を見つけた頃には、既に日も暮れかけていた。
「・・・ったく、とんでも無く見当違いな所を探し回って、クタクタだぜ・・・」
カブキは、そう言って阿国の隣に座り込むと、深呼吸をした後で、胸元から小さな箱を取り出した。
「・・・ほら、これ、お前の分」
阿国が箱を開けてみると、中には大きな飾りの付いたピアスが入っていた。
「・・・最初はお前だけに買うつもりだったが、卍丸とかにも買って行かないと、スネるからよ・・・。気に入った店捜すのに、一晩掛かっちまった・・・」
バツが悪そうにブツブツ言うカブキを見て、阿国は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがと、カブキ。大事にするね」
「ったりめぇだ。・・・富士山が心配してるから、帰るぞ」
そう言って恥ずかしそうに立ち上がったカブキは、阿国と共にホテルへと戻って行った。

翌日イギリスを発った一行は、数ヶ月の航海の後、ジパングへと辿り付いた。
「カブキさん、ジパングでは、この品々はご禁制で御座いますよ?」
「何だと!!足下!!てめぇ!!こらっ!!俺様の土産を返しやがれ!!」
前と同じ様に物品の殆どを没収され、足下兄弟を追いかけるカブキを、船から呆れて見ている二人が居た。
「・・・あいつ、前にも同じ手に引っ掛ってるみたいね・・・」
「・・・そうでごんすね」
「あいつ・・・きっと世界一の馬鹿ね」
「・・・そうでごんすね」
富士山に相槌を打たれ、深く溜息を付いた阿国の耳には、カブキからもらったピアスが、眩い光を放っていた。

―終わり―


■あとがき■
あははははは!!
今回はもう笑うしかないです。(苦笑)
マントーちゃんを差し置いて、世界一の馬鹿と称されたカブキ君の将来やいかに・・・
でも、桜葉自身はカブキもマントーも大好きなんですよ♪(お馬鹿キャラに弱いらしい)
実は今回のお題を書くに当たって、ワンピで書くか天外で書くか迷ったんですが、何か物凄いお馬鹿ネタが書きたくなってしまったので、カブキに犠牲者になってもらいました(苦笑)
格好良いカブキを期待した皆様、本当にごめんなさい!!=3(逃走)




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