寂しさ

(天外魔境2)


広島の町を救った卍丸達は、戦いの傷を癒す為に、暫し広島に滞在していた。
そんな中、絹は、時間を見つけては白銀城のあった場所へと赴いては手を合わせる事が、毎日の日課となりつつあった。
極楽は、いつもの様に絹が出かけた後で、部屋に残っていた二人に声をかけた。

「絹の事なんだが・・・」
極楽の言葉に、卍丸とカブキの二人は、静かに極楽の前に黙って座った。
絹は秘められた力を開放したにも関わらず、卍丸達に受け入れられた事で、本来の明るさを取り戻しつつあった。
しかし、吹雪御前をその手にかけた事を悔い、毎日城のあった場所に赴く姿を見ていると、絹の言い知れぬ悲しみと寂しさが、ひしひしと3人の胸に突き刺さってくる。
「暗黒ランを全て斬ったら・・・わしは絹とここに残ろうかと思っておるんじゃ。
・・・わしにも、絹にも、もう帰る場所が無くなってしまったからの・・・」
「・・・二人で?」
「あぁ、わしも絹も天涯孤独の身になちまったからの。・・・それに、絹はここに残りたい様じゃし・・・」
「ちょっと待て、絹がここに居たいからって、何も極楽まで居ることは無いだろ?」 「カブキ、極楽がそういう男じゃない事は、俺たちが一番知ってるだろ?それに絹がそうしたいなら、俺も良いんじゃないかと思う。」
カブキの心配を察した卍丸が口を挟むと、カブキは口を尖らせた、不服そうな顔をした。
「でもよ、絹を預けるなら、伊賀の3姉妹の所・・・あ・・・」
カブキは言葉を言い終える前に、口を閉じた。
絹なら、伊賀の百々地家でも快く受け入れてくれただろう。
しかし、天外孤独の身となった絹が、仲の良い三姉妹の姿を目の当たりにして、傷付かないと言う保障は無い。
それならむしろ、最愛の女性を亡くして同じく孤独な身の上の極楽と一緒に生活した方が上手くやっていけるかもしれない。
「しかし、住まいはどうするんだ?」
「それなんだが、この先に火刃村と言う集落があってな。そこでなら火の一族のゆかりの者もおるじゃろうし、ここにも近いからな、しばらくやっかいになろうと思っとる。後は・・・絹の気持ちの整理を待って、それから決めるさ」
その言葉に、二人は黙って頷いた後、カブキは卍丸を連れて部屋を後にした。

カブキは宿を出た後、そのまま人気の無い浜まで卍丸を連れ出した。
「卍丸・・・お前、暗黒ランを斬っちまったら、やっぱり母ちゃんの元へ帰るんだろ?」
「うん・・・まぁ・・・」
「けっ、待ってる人が居るってのは、良いご身分だよな・・・悪い、お前だって父ちゃん亡くしてるのにな・・・」
カブキの一言に、卍丸はハッとした表情でカブキを見た。
「・・・俺にも一応ヘビ仙人のジジイが居るが・・・お前、絹の所には時間が許す限り会いに来てやれよ?・・・別に極楽の心配なんざしてねぇが、絹はまだ子供だ。シロも死んじまって本当に一人になっちまったあいつを支えてやれるのは、お前だけなんだからな。まぁ、俺様もなるべく来るつもりだが、女たちがやきもち妬いても困るからよ」
言い方はいつものふざけた口調だったが、カブキの眼差しは真剣そのものだった。
カブキは絹に過去の自分を重ねている事に気付いた卍丸が黙って頷くと、カブキは黙って卍丸の頭を撫でた。
「・・・まったく、てめぇって奴は戦いの時以外はてんで役に立たなくて・・・まるで俺様に弟でも出来た気分にさせられるじゃねぇか・・・」
「カブキ・・・」
二人の間にほんわかとした空気が流れ込んだ瞬間、カブキはハッとした顔で卍丸を押しのけると、街の方へと駆け出して行った。
その先には、町一番の美女と称される、女性の姿。
「卍丸!俺様今日は戻らねぇから、二人には上手く言っとけよ!」
そう言って女性と姿を消したカブキを見て、卍丸はカブキが本当の兄貴でなくて良かったと思ったそうだ。

―終わり―


■あとがき■
ふぅ、またまた久々の更新になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
今回は寂しさと言うお題だったので、珍しく外伝的内容にしてみました。
えー、卍丸達ってのは、あまり幸せな人生を歩んできた人が居ないかな?ってのが、私の個人的見解でして、父親の居ない卍丸、良い事は無かったと言い切ったカブキ、絹と極楽に関しては言うまでも無いので割愛しますが、それぞれに寂しさを抱えて生きてきたのではないかと思っています。
とはいえ、そればかりに注目したら、ただの暗い話になってしまうので、最後はあえてギャグっぽく締めてみました。
こんなものでも、喜んでいただければ幸いです♪




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