身勝手(天外魔境2/カブキ) |
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舞鶴で船を借りたカブキは、因幡の地に立ち、唇に血がにじむほど歯を噛み締めていた。
(・・・こいつは一体)
カブキが話しかけた人間は、皆砂に飲まれていく。カブキにとって命の次に大事と言える女達が目の前から次々と消えていくのは、カブキにとって耐えられない出来事だった。
しかも、はまぐり姫に捕らえられて以降、これと言った巻物も手に入らず、国中砂嵐で外にもロクに出られない状態で、カブキは一気に路頭に迷う結果となった。
そこでふと脳裏をかすめたのは、師匠であるヘビ仙人の姿だった。
(ひょっとして、あのジジイなら・・・)
カブキはそう思い立つと、道具屋で嵐の護符を購入し、急遽尾張へと向かった。
尾張に降り立ったカブキは、慣れた道をまっすぐに突き進み、長篠町の手前にある洞窟へと入っていくと、通路に置かれたつぼが、一斉に火を噴き、奥に据えられた台座の上に、ヘビ仙人が姿を現した。
「・・・なんじゃ、誰かと思ったら、お前か」
「けっ、相変わらず派手好きなジジイだな」
カブキはそう言ってヘビ仙人の前に立つと、黙って右手を差し出した。
「・・・なんじゃ。今更小遣いの欲しい歳でもなかろう」
「とぼけんじゃねぇよ、さっさと持ってる巻物全部よこしやがれ!・・・状況は解ってるんだろ?」
ヘビ仙人は、ギロリとカブキを見上げた後、深いため息をついた。
「まったく・・・あの小童と共に旅をして、少しは成長したかと思いきや、全く変わっとらんな、お前は」
「はまぐり姫の時は、ちと油断しただけだ、相手が女でなければ俺様が・・・」
「それがお前のおごりと言うのじゃ、この馬鹿者!」
「馬鹿とはなんだ、このクソジジイ!!俺様は急いでるんだ、さっさと巻物をよこしやがれ!!」
ヘビ仙人は、再びため息をつくと、首を横に振った。
「巻物は、わしの所には無い」
「なんだと!?」
「先刻の・・・坂東での異変は知っておるな?」
「あ?・・・あぁ、大門教とか言うのがバケモノ呼び出してってアレだろ?」
「そうじゃ。その折に、わしは、持っている巻物を全てオロチ丸へと託した」
「・・・オロチ丸は」
「江戸じゃ」
「カブキよ。わしは巻物の始末は全て奴に任せた。貸すかどうかはオロチ丸の胸一つの問題。・・・じゃがな、今の様な身勝手な状態では、大切な巻物をお前に託す位なら、自分が出向くと言うであろう。江戸へ向かう道筋、もう少し自分のあり方について考えてみよ」
「・・・・・・・・・」
カブキは地面を見つめて歯噛みをすると、そのまま外へと飛び出して行った。
「・・・なぜ嘘をついたのです?」
ヘビ仙人の背後のあるたんすの影から姿を現したのは、他でもない、オロチ丸その人だった。
「ん?今のあやつには、自分の立場をわきまえ、頭を冷やす時間が必要じゃ。それに、わしの言う通り、今のカブキでは、巻物を貸すつもりはなかろう?」
「はい。自ら戦いに赴くつもりでこちらへ参り、ご挨拶に寄った折に待てと言われ唖然としましたが、その様な訳でしたか。私もまだまだ修行がたりませぬ」
「まだまだわしの足元にも及ばんな、ふぉっふぉっふぉ・・・さて、そろそろ江戸へ戻れ。奴はもう大丈夫じゃ」
「はい。私はこれで・・・師匠、お元気で」
オロチ丸はそう言って頭を下げると、足早に洞窟を後にした。
カブキがヘビ仙人の洞窟を出てから数日後、何故か恋の耳かきを懐に、カブキは江戸の地に居た。
「江戸の女も悪くねぇな・・・っと、今はそんな時じゃなかったな」
カブキは街を歩く女達の姿を恨めしそうに見やりつつ、オロチ丸が興行をしている劇場へと向かった。
劇場へついたカブキは、楽屋で待っていたオロチ丸と、数年ぶりの再会を果たした。
「・・・師匠の所から飛脚が来て、お前が来るのは知っていたが、飛脚より遅いと言うのはどういう事だ?」
鏡に背を向けて座ったオロチ丸の前に腰を下ろすと、オロチ丸はそう言ってカブキを静かに見つめた。
「あぁ・・・ちとヤボ用でな、こっちに来るのが遅くなっちまった」
「・・・まぁ、その事は良い。要件はなんだ」
「とぼけるなよ、ジジイから手紙来たんだろ?さっさと巻物よこしやがれ」
そう言ってカブキが手を伸ばすと、オロチ丸はその手を冷たく跳ね除けた。
「な・・・なにしやがる!」
「それが人に物を頼む態度か?」
「なんだと!?兄弟子だと思って調子に乗るなよ!?」
「・・・お前は一体何におびえているんだ?」
「!!」
オロチ丸から出た意外な言葉に、カブキは言葉を失ったまま、オロチ丸を見た。
「答えられないなら教えてやろう。お前はお前の想像をはるかに超えて成長する卍丸に恐れを抱いているんだ」
「・・・ぐっ」
「これまでのいきさつは既に私の耳へも届いている。お前は本気で倒せると思った敵にあっさりと捕まり、それを開放したのも卍丸だと言う事もな」
「・・・優等生のてめぇに、何が解るってんだよ」
カブキはそう言うと、オロチ丸の胸倉を掴んだ。
「てめぇみてぇな何でも器用にこなす奴に、俺様の何が解るってんだよ!!」
「わかるさ!私とて同じ思いをしたからな!!」
オロチ丸は今までに見せた事無い激昂でカブキに答えると、強引に手を振り払い、襟を正した。
「私と共に旅をした者達も、初めは頼りにならず、私がしっかりしなければと思っていた。暫し行動を別にしていた時期もあった。だが、彼らは私の想像を絶する成長を見せ、私は焦った。・・・だが、彼らのひたむきな態度が私を変えさせたのだ。・・・お前も薄々は感付いているんだろう?」
「・・・一人の力には限度がある・・・」
「そうだ。そして、たとえ一人が欠けてもダメだと言う事を彼らは知っているんだ」
「だったらなおさら俺様が早く戻ってやらねぇと!!」
「まぁ、待て」
オロチ丸は立ち上がると、背後に置いてあるつづらを引き寄せた。
「巻物は貸してやる。ただし条件がある」
「・・・言ってみろ」
「私が頼みごとをした際、必ず指示に従え。これが条件だ」
「・・・解った。約束する」
「・・・約定を破ったときは・・・解ってるな?」
「だー!!解ったから、早く貸しやがれ!!」
カブキがやっとの思いでオロチ丸から巻物を受け取るとほぼ同時に、伊賀からの急使が、オロチ丸の元へとやってきた。
「・・・・・・・・・カブキ、卍丸たちは既に石見へ向かっている。時は急を要している様だ。急げ!」
受け取った手紙をざっと読んだオロチ丸がカブキを見ると、カブキの表情が、一気に引き締まった。
「あぁ、もう行く。・・・恩に切るぜ、じゃあな」
「待て、これで坂東の外れまで行け」
そう言って手渡したのは、坂東で使える嵐の護符だった。
「カブキ・・・死ぬなよ」
「あぁ、てめぇも達者でな、じゃ、あばよ!」
カブキはそう言い残すと、風と共にカブキを待つ友の元へと戻っていった。
―終わり―
■あとがき■
はぁ・・・何だか今回は妙にキツかったです。
今回は「身勝手」と言うお題でしたので、カブキにしようと言うのは最初から決めていたのですが、こんなにくさいセリフ満載のシリアスになるとは思っていませんでした(^_^.)
で、今回のお話ですが、カブキが再び卍丸と別れ、因幡以降消息が途絶えたと言う事と、風雲カブキ伝の方のオロチ丸とのやり取りから、私が勝手に推察して捏造したなんちゃって外伝です(^_^.)
卍丸と一緒に行動した頃のカブキは、レベルも高いし、使える巻物も多くて、大変重宝したキャラでしたし、当のカブキも卍丸の事を自分の引き立て役程度にしか思ってませんでしたよね(^_^.)
それがいつしか立場が逆転している事に気付いたカブキは、凄い焦ってたんじゃないかなぁ・・・と言うのが、私の考えでして、今回のお話となったわけです。
色々と異論もあるでしょうし、まとめ方が下手だなとは思いますが、私の考えはこうなんだなと汲んでいただければ幸いです。