慰め

(サクラ大戦/マリア・カンナ)


「ちょっとさくら!何回同じところで間違えれば気が済むの!?」
大神が巴里へ旅立ったあと、稽古中のステージで金切り声を上げたのは、すみれではなく、マリアだった。
「すいません」
素直に頭を下げるさくらに、マリアはイライラと台本を、ステージの真ん中にある椅子に放ると、自分の気持ちを静める様に深い息をついた。
「ごめんなさい・・・ちょっと早いけれど、今日は終わりにしましょう」
マリアはそれだけ言うと、振り向かずに袖へと消えてしまった。
「マリアさんのヒステリーなんて珍しすぎでーす。すみれさんならともかく」
「なんですって!?わたくしのどこがヒステリーだと言うんですの!?」
「ほらほら、それがヒステリーでーす」
「キーッ!!織姫さん!!許しませんことよ!!」
「・・・カンナさんが黙っている時は、織姫さんが一言言うんですね」
さくらが呆れた顔で二人のやりとりを見ている中、カンナが二人の間に割って入った。
「ほらほら、騒ぐとまたマリアのかみなりが落ちるぞ?それより折角早く終わったんだ、たまにはゆっくりしようぜ」
カンナはそう言って皆を去らせた後、椅子の上に置かれたままの台本を手に取った。
そこには、いつもの明るさは無く、思いつめた顔で台本を見つめたまま立ちすくむカンナの姿があった。
「マリアはテラスよ?」
その言葉に、カンナがハッと顔を上げると、袖からかえでが舞台へと入っていった。
「かえでさんは、何でもお見通しだな。・・・行ってくるよ」
カンナが苦笑を漏らしつつ舞台を降りると、今度はかえでが小さなため息をついた。
「恋せよ乙女か・・・」
かえではそう呟くと、舞台の電気を消して、支配人室へと向かった。

その頃マリアは、テラスで銀座の夕日をぼんやりと眺めていた。
「私は・・・本当に弱くなってしまったのかしら・・・」
「かもな」
背後からの相槌に、ギョッとした表情で振り返ると、台本を手にしたカンナが、苦笑して立っていた。
「なんだよその顔、オバケでも見たみたいな顔してるぞ」
「・・・」
カンナが隣に立つと、マリアは真っ赤になって、街に目を戻した。
「・・・そんなに心配なら、行ってくれば良いじゃねぇか」
「・・・そういう訳にはいかないでしょ・・・私は・・・私達は大神さんから、この街を任されたんだから・・・」
「1年前の時は、野郎ばかりで海の上だもんな、心配の必要もなかったが、今度は花の都巴里、し・か・も、華撃団は当然女だらけだろうしなぁ〜」
カンナがニヤニヤしながら言うと、マリアの顔から、みるみる血の気が引き、唇が小刻みに震え始めた。
(やべぇ・・・マジギレしたかな)
カンナがそう思いながら、無意識に身構えると、マリアの瞳からは、みるみる涙が溢れてきた。
「そんなに・・・不安に・・・させない・・・でよ・・・私の気持ち・・・知ってる・・・くせに・・・」
手すりに突っ伏して泣いてしまったマリアの、あまりにも意外な展開に、カンナはおろおろして、肩を抱いた。
「ごめん、マリア。あたい、いじわるするつもりじゃなかったんだよ・・・ただ、あまりにお前が素直じゃないから、ちょっと発破かけてやろうと思っただけで・・・」
マリアは顔を伏せたまま上体を戻すと、そのまま体を返して、カンナに抱きついた。
「カンナ・・・私・・・どうしたら良いの?・・・戦い方ならわかるけど・・・こういうの解らないわよ・・・」
そこには冷静沈着なマリアの姿は無く、ただ、恋焦がれる人の事で、迷い苦しんでいる乙女の姿があるだけだった。
「会いに行けよ。こんなところで、グズグズしてるマリアなんて、マリアじゃねぇよ」
マリアの涙が乾くまで、カンナはその場を動かず、マリアの髪をなで続けていた。

(マリアさんって、意外にオクテだったんですね)
(キャーvカンナさん素敵すぎでーすv)
(そうだね、確かに背のバランスも良いし、絵になる二人だね)
(レニさん、論点が違ってますわよ)
(でも、ほんま絵になる二人やなぁ・・・ファンが観たら、卒倒するんやないか?)
(アイリスも、お兄ちゃんに会いたいよ・・・)
テラスのカーテンに隠れ、二人の会話を盗み聞きしていた4人はそれぞれに好き勝手な事を言っているが、カンナが来る前から、心配でこっそりとマリアを見張っていたのだ。
(どうするのかな、マリア)
(行くと言わなければ、わたくし達が日本から追い出してやりますわ)
(そうだね、アイリスの船で、皆でフランスに行っちゃおうよ♪)
(そんな事したら、またマリアさん、怒って帰っちゃいますよ?)
(支配人に相談してみればええんやない?)
(それ、ナイスアイディアでーす)
小声でそんな相談をしている間に、二人がこちらに向かってきたので、5人は慌てて、隣のサロンに飛び込んだ。
5人は2人が階段を下りていくのを確認した後、裏の階段から降りて、足音が消えたのを確認してから廊下に出ると、そこには、呆れた顔で皆を見るカンナの姿があった。

(お前ら、覗き趣味も大概にしろよな)
小声で囁くカンナの耳には、ガラスのコップがドアに押し付けられている。
(そういうカンナさんだって、しっかり仲間に入ってるじゃないですか)
そういうさくらを始め、皆の耳にもコップが押し付けられ、中の様子を伺っている。
(二人ともうるさいでーす!聞こえないじゃないじゃないですか)
6人は、黙って中の様子を伺っている。

「巴里に行かせろだぁ?」
支配人室の中では、米田がマリアの唐突な発言に、片方の眉を吊り上げた。
「はい。・・・今の精神状態では、とてもじゃないですが、舞台も戦闘も務まりませんし。もし許可が下りなければ、退団して、個人で巴里に向かうつもりです」
「おめぇ、本気で言ってるのか!?」
「もちろんです」
退団と言う言葉に驚いて、身を乗り出す米田に対し、マリアは眉一つ動かさずに答えた。
「・・・・・・・・・仕方ねぇな」
米田は椅子に座りなおすと、バツが悪そうに頭を掻いた。
「え?」
マリアの表情が驚きと期待の入り混じった表情に変わると、米田は苦笑を漏らしつつ、かえでを見た。
「何度も説明するのも、面倒くせぇや、あいつら中に入れてやれ」
かえでは苦笑を漏らしつつ、ドアを開けると、コップを背に、そ知らぬ顔をしている6人に、中に入るよう、促した。
「ばっかやろう、耳にコップの痕つけてんじゃねぇよ、みっともねぇ」
6人の耳には、丸い輪になった赤い痕がくっきりと残っていて、その顔を見たマリアが、呆れた後、笑い出した。
「おいおい、ゲンキンな姉ちゃんだなぁ・・・さっきまで死にそうな顔してたのによぉ」
「し・・・支配人!!」
真っ赤になって慌てるマリアを観て、皆で笑った後、米田が提案した事は、すぐさま皆に了承された。

翌日、偶然にも大神から手紙が届いた。
あて先は、皆にあてたものと、マリアに宛てた物の2通。
マリア宛の手紙は、今もマリアの机の引き出しに、大事にしまわれている。

―終わり―


■あとがき■
今回は、すっごい悩みましたよ(^_^.)
慰め・・・慰め・・・慰め!?
誰を?誰が?何の理由で?どうやって?
一番困ったのは理由です。
どのジャンルにしても、悩むとか、悲しむ理由を考えないといけないんですよ。
能天気桜葉にとって、これが一番の悩みでした。
で、ふと思いついたのが、4で出た、帝都ヒロインのわがままネタです。
で、次は誰にするかでしたが、ここまできまると、後は結構すんなりすすみました。
私的に、マリア・カンナは王道ですから!(どーん)
苦労した割に、何となく中途半端な気がしますが、楽しんでいただけたなら、幸いです。




Copyright(C)青海物語