無防備(サクラ大戦活動写真) |
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ヤフキエルの脅威が去り、海神別荘の上演を控えるばかりとなったラチェットは、食堂に面する廊下から、呆然と中庭を眺めていた。
「あら、どうしたの?そんなに驚いた顔をして」
突き当たりの事務所から出てきたマリアが丁度唖然としたラチェットを目撃し声をかけると、ラチェットはいつもの微笑を含んだ表情に戻っていた。
「マリアさん・・・いえ、先程からレニがアイリスと昼寝をしているのですが、さくらさんが毛布をかけても、気付く様子すらないのに、少し驚きまして」
一旦体をマリアの方に向けてそう言った後、ラチェットは再び中庭を見つめた。
「レニは、随分堕落してしまったみたい・・・」
「そうかしら?」
ラチェットの呟きを聞き逃さなかったマリアは、少しムッとした様子で、ラチェットの隣に立ち、日当たりの良いベンチで眠っている二人を見た。
「レニは、大神隊長と会って変わったわ、それは私も同じ・・・私もレニも、大神隊長に出会う前までは、人を信頼する事を知らなかった・・・」
「過剰な信頼は、ミスを招くわ」
「・・・だとしても、私達は仲間を殺すなんて真似は出来ない」
「あの時は、織姫を攻撃するのが一番合理的じゃないの?その時もレニが信頼なんてくだらない感情で負傷したのだし、話にならないわ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「はいはいはい、こんな所で大の大人が喧嘩しない!」
二人が同時に向き合い、冷たい火花がぶつかるのとほぼ同時に、食堂から出てきたカンナが間に入った。
「カンナ・・・」
「マリア、お前らしくないじゃんか、ラチェットは昔のレニしか知らないんだ、そう思っても不思議はないだろ?」
カンナはそう言うと、小さく息をついた。
「ラチェット・・・あんたの考えは多分正論だろうな、でもよ、人間ってのはそれだけで動けるもんじゃないだろ?」
「私は・・・少なくとも星組のメンバーはそうして任務を遂行してきたわ」
「・・・まぁ、こんな所じゃなんだ、ちと場所を変えようぜ」
三人は、そのまま食堂へと入っていった。
「・・・で、マリアは何を怒っていたんだ?」
向かい合って座ったラチェットとマリアの間に座ったカンナは、そういうとマリアの顔を見た。
マリアはレニの変化に対して、ラチェットが堕落したと称したのが気に入らないと素直に言ったが、ラチェットの方は既に気にも留めない止めていない様子で、運ばれてきたコーヒーに口をつけていた。
「私は、レニが無防備な姿を見せる様になって安心した矢先だけに、ついね・・・」
マリアはそう言うと、小さく息をついた。
「なるほど、マリアらしいな」
カンナは納得した様に小さく頷いた後、静かにラチェットを見た。
「あんたは、レニが織姫を庇ったのと、中庭でのんきに寝てるレニを見て堕落したと思ったんだよな?」
「ええ」
「・・・ま、大神さんが隊長になる前のマリアなら、同じ事言ったかもな、油断しすぎだって・・・」
「・・・」
「マリアもレニも、堕落した訳じゃねぇんだよ、安心していられる場所を見つけたから、あぁしてのんきに寝ていられるんだよ」
カンナの一言に、ラチェットは不快そうに眉をひそめた。
「あたいは、マリアの過去も、レニの過去も聞いただけで見てはいないから、推測でしか言えないが、自分しか信用できる人間が居なかったんじゃねぇかな・・・でも、ここに来て、大神さんに出会って、あたいたちは互いを信頼し、その事によって強くなれる事を知ったんだよ」
「・・・信頼と油断は違うわ」
「そうだな。でも、仲間が周りに居るときまで気を張り詰めていたら疲れるだろ?あんたも知っての通り、ここは一見ただの劇場だが、要塞並みの装備は整えてるし、敵が来れば、あの二人だって、すぐに気持ちを切り替える覚悟は常に出来てる。それをただ昼寝してるだけって理由で堕落したと言うのは、ちと厳しすぎないか?」
「違う!私が言いたいのは、あの子が寝てる間に何人もの人間が行き来するのに少しも起きる様子が無いから堕落したと言ったんです」
「おーう、それも間違いでーす」
三人が声の方を向くと、静かに開かれたドアから、織姫が入ってきた。どうやら、ドアの向こうにも、他のメンバーが聞き耳を立てているらしい。
「織姫・・・」
「ラチェット、あなた、物凄い勘違いしてまーす。レニは気付いてないのでは無く、気付いても気付かないふりして、また寝るでーす」
「貴女にそんな事・・・」
「ずっと一緒に居たから、そんな事位楽勝でわかりまーす♪むしろ、ラチェットの勘が鈍ったのではないでーすか?」
織姫はそう言うと、カンナの向かいに腰をかけた。
「私が・・・鈍ったですって・・・?」
「・・・レニは、体を張って私を助けてくれました・・・でも、あの時、もし私とラチェットの立場が逆でも、レニは飛び出して行ったと思いまーす。今のレニは、自分の守るべきものを見つけ、そして、自分も守られている存在だと気付いたのでーす」
「・・・私には、ただの馴れ合いにしか見えない・・・そんなのは、合理的じゃない」
ラチェットは、そう言いのこして、食堂を後にした。
マリアは、立ち上がってラチェットを追おうとした織姫の手を掴み、静かに首を横に振った。
織姫は、座りなおし、出されたコーヒーに口をつけると、小さく息をついた。
「私、花組に入って暫くの間は、ラチェットと同じ事考えていました。馴れ合いで勤まるなら、星組の方が、よっぽど優秀じゃないかと・・・でも、皆さんと付き合いを深めていく内に、どうして星組が解散に追いやられたかが、段々と解ってきました。形だけの連携じゃ、非常時にバラバラになるのは目に見えてまーす・・・レニもきっと、それに気付いたんだと思いますが、ラチェットは・・・」
「大丈夫だよ」
織姫がため息をついて視線を落とすと、カンナが優しく言った。
「今は無理でも、きっと解ってくれる時が来るさ」
カンナの言葉に、織姫は小さく頷いた。
そして海神別荘の初日に事件は起きた。
信頼を求めるさくらにラチェットが激怒し、さくらに切りつけたのだ。
しかし、誰もその事を責めたりはしなかった。傷ついたさくらでさえ・・・
ラチェットの中で何かが変わり始めたのは、その時からかもしれない。
―終わり―
■あとがき■
あー、何か中途半端な締め方をしましたが、いかがでしたでしょうか?
今回は初めて活動写真をテーマに書いてみましたが、私としては、ラチェットを少し悪く書きすぎちゃったかなと思いつつも、ラチェットの今後に期待を込めて、あえて悪役をやってもらいました(^_^.)
誤解の無い様に言っておきますが、私、ラチェット好きですよ(^_^.)
新作のサクラが楽しみな今日この頃、こんな物でも楽しんでいただければ幸いです。