(サクラ大戦)


深夜の帝劇では、見回りを終えた大神が、舞台に立って、明日の舞台を待つセットを見上げていた。
「大神さん」
ぼんやりとセットを見上げていた大神は、掛けられた声の方向を慌てて見ると、舞台の袖からさくらが歩いてきた。
「さくらくん・・・どうしたんだい?こんな時間に・・・」
「何となく寝付けなくて・・・そしたら、自然に足が此処に向いていました。」
さくらはそう言うと、ゆっくりと大神の隣に立ち、同じようにセットを見上げた。
「そう言えば、今日じゃなかったですか?大神さんがあやめさんにお会いした日って・・・」
「あぁ。だからかな・・・見回りは終わったのに、自然と此処に来てしまったよ」
大神はそう言うと、薄明かりの下にぼんやりと浮かぶ大階段に腰を下ろした。
「・・・今日は確か、さくらさんがいつもの様に転んでセットをぶち壊した日でしたわね?」
「!・・・すみれさん!」
「あの時は大事になったけど、怪我人が一人も出なかったのは幸いだったわね」
「マリア・・・」
「へー、お兄ちゃん、ここであやめお姉ちゃんに会ったんだ」
「ほー、それは初耳やなぁ」
「本当だな、ちーっとも知らなかったぜ」
「皆・・・」
気が付くと、あやめが指揮していた頃のメンバーが揃い、皆、大神と同じ様に、階段に腰を掛けた。
「なぁ、さくらはんは大神はんとあやめはんの馴れ初めを知ってるみたいやな?うちらにも聞かせてぇな」
紅蘭が好奇心満々と言った表情でさくらを見ると、さくらは恥ずかしそうに、当時の出来事を正直に話し始めた。

「へー、大神はんが釘の代わりに指を打ったと・・・・」
「それで手当てしてくれたのがあやめお姉ちゃんだったんだ」
「で?その後さくらさんは結局手伝いしないで部屋に篭ったと、そういう事ですわね?」
「・・・だって、あの時は恋人みたいで・・・羨ましかったと言うか・・・」
「ふふふ、いかにもさくららしい話ね」
「まぁ、次の日、一番頑張ったのはさくらだったし、良いじゃねぇか・・・それより」
カンナはそう言って、しみじみと舞台を見回した。
「あたい達・・・あやめさんが居たからこそ、こうして今も舞台に立っている・・・そんな気がするんだ」
「そうね、あやめさんが居なかったら、私きっと・・・」
カンナとマリアがそう言いながら客席を見つめると、皆もまた一様に思い出に浸る様に、ぼんやりと客席を見つめた。
「おいおい、皆して何してるんだ?」
しんみりした空気の中、聞きなれた声に一同が驚いた顔で袖を見ると、其処には一升瓶を抱えた米田が笑いながら近づいてきた。
「あやめくんは、こんなしんみりした雰囲気は大嫌いだった筈だぞ?」
米田はそう言うと、舞台の真中にどっかりと腰を下ろした。
「どうせ公演は夜からだろ?ほら、てめぇら、ぼやぼやしてねぇで、自分のコップを持って来い!・・・それと、織姫とレニとかえでくんも、起きている様なら、呼んできてやれ」
「はい!」
その後、真夜中の舞台では、あやめを偲んでささやかながらも賑やかな宴会が開かれたという。

―終わり―


■あとがき■
えー、私の家では遅ればせながらのサクラブームが到来しまして、漢字があらかた読める様になった息子が、今、一生懸命サクラに挑んでいます。
で、今回のお題の
「釘」
なんですが、やはり釘と言えば、あやめさんと大神君のエピソードが印象的でしたので、今回のお話にしてみましたが、これってサクラの1をプレイしていない人には何が何やらって感じでしょうね(^^ゞ
でも、私にとってあやめさんは、サクラを代表する女性なんじゃないかなと言う思いも込めて、今回のお話となりました。




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