Temptation

(世阿弥)


「・・・世阿弥様」
ストーンヘンジの前を横切ろうとした時、ストーンヘンジの入口にある森の影から、聞きなれた声がした。
「・・・ジョイアさん」
世阿弥の目の前に現れたのは、純白のコートに身を包んだジョイアであった。
「ジョイアさん、教えて下さい。この町では一体何が起こったのですか!?」
世阿弥の問いかけに対し、ジョイアは世阿弥の瞳を見つめたまま静かに口を開き始めた。
魔王ガープの襲来、それに抵抗するも空しくガープの魔力にひれ伏し、バンパイアとなった父サングエと、自ら進んでバンパイアとなった自分の事を語った。 「ジョイアさん・・・」
「世阿弥様。・・・わたくしは、貴方にこのわたくしの老いてゆく姿を見られたくなくて、自ら悪魔に身を捧げました。・・・貴方がもしわたくしの事を本当に想って下さるのなら、貴方の時間をわたくしに下さいませんか?」
「・・・私は」
返事をしようとした時、世阿弥の脳裏に直接響く声を聴いた。
『目を見るな』
「え?」
我に返って辺りを見回すが、其処には鬱蒼と生い茂った木々達が見えるのみで、誰の姿も無かった。
「世阿弥様・・・」
その一瞬の隙を突いて、ジョイアが世阿弥の胸の中へと飛び込んできた。
「わたくし、世阿弥様に初めてお会いした時からずっとお慕いしておりました。・・・父へ世阿弥様との事をお願いした時、世阿弥様のお気持ちを父から聞いた時、わたくし嬉しくて・・・」
ジョイアはそう言いながら、ゆっくりと背中に腕を回して、体を密着させてきた。
「ジョイアさん・・・」
「わたくしを見て・・・」
『見るな!』
その瞬間森が騒いだが、その声はもう世阿弥には届かずに、世阿弥はジョイアと共にサングエの待つ城へと戻っていった。

おわり


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